読み聞かせ:効果証明 大脳辺縁系が活動、喜怒哀楽わかる子に 脳科学者ら共同研究

「子どもの感性を豊かにする」「親子の絆が強くなる」と体験的に言われてきた読み聞かせの効果だが、科学的な裏付けはあるのだろうか。脳科学者で「読み聞かせは心の脳に届く」(くもん出版、735円)の著者の泰羅雅登(たいらまさと)東京医科歯科大教授(57)=認知神経生物学=に聞いた。

 

 泰羅教授は2人の子が幼いころ、度々本を読んで聞かせた。笑ったり怖がったりする素直な反応が楽しかったという。06年、「子どもがこれほど喜ぶ読み聞かせの効果を科学的に証明しよう」と白百合女子大学、日本公文教育研究会と共同研究を始めた。

 泰羅教授らは本を読んでもらっている子どもの脳は、「前頭連合野」が活性化していると仮説を立てた。前頭連合野は、情動や感情をコントロールし、コミュニケーションをつかさどる。心理学の研究では、読み聞かせによって想像力やコミュニケーション力がつくとされ、前頭連合野の働きと合致している。

 

 研究では、赤外線で血流を測定する装置を母子の頭にかぶせた。脳が活動している場所は、酸素を供給するために血流が増える。

 母親に本を読んでもらうと、母の前頭連合野は血流が増し活性化していたが、聞いている子どもの前頭連合野は活動していなかった。

 仮説が崩れたため、別な装置で測定した脳の広い範囲や深い部分のデータを見直してみると、恐怖や驚き、喜怒哀楽などの感情にかかわる「大脳辺縁系」が活動していることがわかった。泰羅教授は大脳辺縁系を「心の脳」と名付け、「読み聞かせは子どもの『心の脳』に届いていた」と結論づけた。

 

 泰羅教授によると心の脳には、「自身をたくましく生かしていく役割」があるという。人間を含めた動物は、恐怖や嫌悪を経験した場所には身を守るため近づかなくなり、喜びや楽しさを得た体験は再現しようとする。これら理性にとらわれない行動をつかさどるのが、心の脳なのだ。

 

 幼いうちからの読み聞かせは心の脳を育てることにつながる、と泰羅教授はみる。「生物の基本行動に結びつく、喜怒哀楽がしっかりわかる子になると思います」

 「読み聞かせをしている親子は絆がしっかりしているとも感じる」と泰羅教授。親が子の気持ちになり、反応を確かめながら本を読むと、子を観察するようになるという。日常生活でも変化に気づきやすくなり、タイミング良くほめることができる。ほめられた子はより成長しようとする。「好循環で正のスパイラルが生まれます」。副次的な効果も期待できる。

(2011.10.2 毎日新聞から転載)

 

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