粉ミルク溶くのは控えて 妊婦は大丈夫 東京の水道水

■赤ちゃんがいるのですが?

 東京都が23日、放射性ヨウ素が検出されたことを理由に、23区と多摩地区の5市を対象に、乳児に水道水を与えるのを控えるよう呼びかけた。乳児のいる家庭では、どうしたらいいのか。

 東京都が水道水を飲むのを控えるように求めている「乳児」は1歳未満のこどものことだ。一方、厚生労働省はミルクだけで栄養をとっているこどもは、年齢に関係なく水道水を控えるべき「乳児」ととらえている。離乳食も含め、食事ができるこどもなら、ミルクだけに栄養を頼っているわけではないからだ。

 今回、都の浄水場で検出された放射性ヨウ素は1キロあたり210ベクレル。厚生労働省が定める乳児の基準(1キロあたり100ベクレル)を上まわるので、乳児に飲ませたり、粉ミルクを溶くのに使ったりはしない方がよい。

 ミネラルウオーターは本来、ミルクには適さないが、やむを得ず使うならなるべくミネラル分が少ないもので代用した方がいい。粉ミルクは水道水などミネラルの少ない水で溶いたときに母乳に近くなるよう成分が調整されているからだ。都は乳児がいる家庭に対し、問題発覚以前にペットボトルに詰められた水道水を24日にも配布する計画だ。対象乳児の確認方法などは各区・市役所に対応を任せるとしている。

 ヨウ素は放射能が半分になる半減期が8日と短く、すべてが蓄積されるわけではない。とはいえ、大西武雄・奈良県立医科大特任教授(放射線生物学)によると、乳児は体内の細胞分裂が盛んなので、放射線の影響を大人よりも受けやすいとされる。

 ただ、今回検出された水の濃度は、DNA損傷量が測定できないくらい低いものだという。鈴木元・国際医療福祉大教授(被曝(ひばく)医療)も「現在の濃度なら、大量に飲まなければ心配する値ではない」と話す。

では、母乳で赤ちゃんを育てている母親や妊婦は、水道水を飲んでもよいのだろうか。政府はいずれの場合でも、「大人の基準(1キロあたり300ベクレル)以下の水なら大丈夫」としている。

 

■大人はいいの?

 では大人なら大丈夫なのか。

 いまの段階であまり神経質になる必要はない。300ベクレルという基準自体、1年続けて飲んでもリスクが低いとして決められたもので、一時的に飲んだぐらいなら影響は考えにくいという。

 消毒しようとして沸かしても、放射性物質の濃度は変わらない。だが、たとえ基準を超えた水でも、手を洗ったり、入浴したりといったぐあいに生活用水にするなら問題ない。洗濯に使って「衣類が汚染される」などと考える必要もない。

 今回、放射性ヨウ素の高い値が出たのは金町浄水場の水だ。家庭に届くまでに、他の浄水場の水と混じり合うことも多い。現在、計画停電の影響もあって各浄水場からの水の混じり具合は一定ではなく、家庭の蛇口から出る水道水での濃度はまちまちとみられる。都が新宿区の施設で続けている分析結果でみると、22日の放射性ヨウ素の1リットルあたりの値は18.7ベクレルだった。

 都は、放射性物質を除去する効果がある程度、期待できるとして、21日夜から浄水に使う粉末活性炭の量を3倍にしていた。今回、基準を上回る放射性物質が検出されたことを受け、23日午後からは4倍にした。

 一方で、政府によると、家庭用浄水器で同様の効果があるかどうかはデータがなく不明という。

 

■これからは?

 どうして今、水道水から基準を超える放射性物質が出たんだろう。

 水道水から放射性物質が検出されたのは、東京電力福島第一原発の1号機が水素爆発してから約10日もたった22日だった。

21日は都内で雨が降った。都は、空気中に漂っていた放射性物質がこの雨に溶け込んだためだと推測している。こうした雨が、浄水場が取水している川に流れ込み、水道水に含まれる放射性物質の数値が上昇したとみている。

 では今後、放射性物質の値は増えるのか、減るのか。

 都によると、22日採取分では210ベクレルが検出されたが、23日の採取分で検出されたのは190ベクレルだった。下がったようにもみえるが、測定には誤差があるため、必ずしも下がったとはいえないという。都や政府は「今後の数値の変化を注視する必要がある」として推移を見守る構えだ。

(2011年3月24日 asahi.comから転載)